センスのある電話占い
「デートっていったって、家具売場ばっかりよ。
ゆっくり話をする暇もないの。
おまけに、親戚に恥ずかしくない家具にしろ、なんて言うしさ」と、彼女はこぼす。
「なあんかさ、夢も希望もないって感じがしてね。
彼ったら、ばかみたいに熱心なのだもの。
でも、あとには引けないよね。
マンションも決めちゃったし、指輪も受けとったし。
親は喜んでいるし。
でも、なんだかいやなの、私。
この頃ね、彼と会うたびに身も心も老けていくような気がするのよ。
ねえ、どうしよう、A。
どうしたらいいの。
私ね、結婚したら、貧乏でもいいから、夫婦で同じ夢を見るような、そういう生活がしたいのよ」ため息をつきながら、彼女は訴える。
きっと、ライターの彼のことが忘れられないのだろう。
彼女は何も言わなかったが、婚約してからずっと憂欝そうな彼女を見ているとそうとしか思えなかった。
「言おうかしら、言わずにおこうかしら」と私は迷った。
彼女のことを思うなら、堅実なr フィアンセと結婚して、安定した生活をつかんだほうがいいとアドバイスすべきだろう。
もし、ライターの彼と結婚したら、生活は彼女が支えることになるだろう。
お嬢様育ちの彼女にとっては、厳しい毎日となろう。
それなのに、私は言ってしまった。
「婚約、解消したほうがいのじゃないの」と。
もっとも、私は個人的には、ライターの彼よりもフィアンセの彼のほうが好きだった。
家具を買ったり、電気製品をととのえたりすることを大切にする人は、きっと家庭的な旦那さんになるだろう。
だから、彼女が彼を軽蔑するのはおかしなことだとも思った。
夫婦で夢を見ながら暮らすといったって、言うだけなら簡単だが、実現するのはむずかしい。
そういう生活にしたって、朝、起きたら下着をタンスから出し、夜、眠るときに洗濯機に入れなければならない。
もちろん、ご飯だって食べる。
人は霞を食べて生きていくわけにはいかないのだから。
それでも、彼女がフィアンセの堅実さにゲンナリしてしまった以上、この結婚はやめるべきだ。
彼は結婚しても堅実なままだろう。
むしろ、さらに堅実になっていくはずだ。
当然、彼女はますますゲンナリすることになるに違いない。
それからすぐ、彼女は結婚をとりやめてしまった。
私はよけいなことを言ったのだろうかと、後悔したが、驚きはしなかった。
おそらくそうなると思っていたからだ。
ただ、彼女が前の彼と結婚したときは、びっくりした。
いくら好きでも絶対に一緒にはならないと言っていたからだ。
これで彼女が幸福になれば、めでたし、めでたしである。
やっぱり最後に愛は勝つというハッピー- エンドをもってこのエッセイをしめくくることができる。
けれども、現実はそうは甘くなかった。
堅実な人が堅実な金銭感覚を持ちつづけるように、生活破綻者は結婚してもやはり生活破綻者のままだった。
ライターの彼は所帯を持っても、相変わらず好きな仕事ばかりしていて、家庭にはほとんど生活費を入れない。
やがて、彼は彼女の収入で生活し始めた。
前から「ヒモになるのが夢だ」と言っていたから、彼にすればかねてからの夢を果たしただけだったのかもしれない。
子供ができて妻が仕事をやめれば、少しはしっかりするかもしれないという周囲の期待を、彼は見事に裏切った。
それどころか、彼女が働かなくなったとたん、家に帰ってこない日が増えた。
彼女に「なんとかしてよ」と責められるのがいやで逃げ回っているのだ。
結局、彼女は子供と実家で暮らすようになった。
彼は週末だけ妻子に会いにやってくるものの、あとはどこで何をしているのやら、風来坊のような生活だ。
そんな彼女を見ると、私は責任を感じてしまう。
あのとき、堅実な彼との結婚を強くすすめていれば、こんなことにはならなかったのだろうか。
ところが、彼女は「ううん、気にしないで」と、首を振る。
今の生活に完全に満足しているわけではないけれど、予定通り結婚していたら、もっともっと不満だったに違いないというのである。
「もう少ししたら職場に復帰して、パリパリ働くわ。
旦那を食わせてやるの。
あの人、書きたいことがあるのだって」と言う彼女の顔は、けっこう明るい。
私には救いだ。
「結婚すると、男の財布は妻の財布になる」と言う人は多い。
けれども、なかには自分の財布を誰にも渡さない人もいる。
それどころか、彼女の夫のように、財布の存在さえ忘れているような男もいる。
普通だったら、即離婚となりそうなものだが、彼女は離婚しない。
きっと、結婚前にその兆しを充分に感じていたのに、あえて彼を選んだからだろう。
いわば、財布を渡されないことを納得した上での結婚だったのだ。
男の金銭感覚は、結婚前に推測することができる。
それを納得することは、結納や結婚指輪以上の存在となって、その後の結婚を継続させていく力となるようだ。
だから、財布を聞けるときの彼から目を離してはいけない。
たかが財布なんてとあなどっていては駄目だ。
デートのあと、キャッシャーの前にいる彼は、単にお金を払っているわけではない。
あなたにその後の結婚生活がどんなものになるか教えてくれているのだ。
ひとりの気楽さ、わからないでもないけれどあえて二人でいることを選ぶ結婚を迷っているあなたへ私の周囲には、結婚しようかどうしようかと迷っている女の子がたくさんいる。
彼女たちが結婚に踏み切れないのは、今の生活で充分満足なのに、わざわざ大変な毎日を選択すべきかどうかわからないからだ。
働いているから、経済的な安定は確保されている。
それどころか、収入はすべて自分のためだけに使っているという人もけっこう多い。
私の知り合いにも、独身の美女がいるが、彼女は「私に今と同じだけのお小遣いをくれる人じゃないと、結婚する気にならない」と言って、結婚に踏み切れないでいる。
一流の商社に勤める彼女を満足させるのは大変だ。
なにしろ、月給は全部、お小遣いに回しているのだから、かなりの高収入に恵まれている人とでないと、無理だろう。
お休みのたびに旅行だ、食事だ、芝居見物だと楽しんでいる彼女を見ていると、これじゃあ、結婚する気にならないのも無理ないかな、という気がしてくる。
私の場合は、ひとりでいるのがいやで結婚した。
父が転勤になったため、高校三年生の頃から下宿した私は、ひとり暮らしをトコトンいやだと思ってしまった。
彼女のように生活を楽しめばよかったのだろうが、年が若すぎたのか、そういう才能がないのか、とにかくひとりでいたくない、誰か一緒にいてくれる人が欲しい。
まだ高校生だったというのに、心底、そう思ってしまったのだ。
大学に入った頃には、結婚願望の強い女になっていた。
けれども、本当はこれではいけないのだと思う。
寂しさをまぎらすために結婚するなんて、相手に対して失礼だ。
ひとりも楽しめるけれど、二人でいるほうをあえて選ぶ。
そうでないと、1+ 1を2以上のものにすることはできない。
こんな私だが、「結婚しようかどうしようか迷っているのです」という相談を持ちかけられると、「とりあえずしてみたら」と答えてしまう。
うまくいくかどうかはわからない。
幸福になれるかもしれないし、なれないかもしれない。
そんなこと誰にもわからないわけで、「あとは野となれ、山となれ」の心境で臨むしかない。
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